関税と半導体の原産国の基礎

米国旗のそばに置かれた基板と半導体チップ

2025年、米国の関税は数か月のうちに何度も方針が変わり、そのたびに半導体や電子部品の調達が揺れました。税率や対象はこれからも変わり得ますが、関税がかかるかどうかを決める仕組みは変わりません。カギになるのは、製品がどこに輸入されるかと、その製品がどこの国の製品とみなされるか(原産国)です。本記事では、半導体の原産国の考え方を軸に、2025年の経緯と、調達・設計担当がいま確認しておきたいことを整理します。

この記事のポイント

  • 関税は輸入する国で発生し、税率はHSコードと原産国(COO)で決まる。中継地を経由しても原産国は変わらない
  • 半導体の原産国は、ウェーハを加工した前工程の国とみなす考え方が米国・欧州で主流になっている。一方、ラベルや販売サイトでは組立をした後工程の国の表示がまだ多い
  • 2025年の米国の関税は、発表・停止・除外が短い間に繰り返された。税率や対象は、必ず最新の公的な発表で確認する
  • 自社の部品の前工程と後工程の国を把握し、説明できるようにしておくことが、関税と地政学の両方のリスクへの備えになる

関税は「どこに輸入するか」と「どこの国の製品か」で決まる

関税がかかるかどうか、何%かかるかは、主に3つの要素で決まります。

  • 輸入する国:どの国に輸入するかで、適用される関税率表や追加の関税措置が変わります
  • HSコード:品目の国際的な分類です。ICは主に8542に分類され、多くの国で関税は0%です。一方、電源モジュールや完成品扱いの電子機器は別のコードになり、数%の関税がかかる場合があります
  • 原産国(COO:Country of Origin):その製品がどこの国の製品とみなされるかです。特定の国だけを対象にする追加関税では、原産国によって課税されるかどうかが分かれます

ここで押さえておきたいのは、関税は製品が輸入される国で、輸入通関のときに発生するという点です。たとえば台湾で前工程、マレーシアで後工程を行ったチップを日本の顧客に直接納めるなら、米国の関税はかかりません。米国の関税が問題になるのは、製品が米国に輸入されるときです。

また、途中で別の国の倉庫を経由しても、原産国は変わりません。マレーシア原産のチップを日本のディストリビュータ経由で米国に送っても、米国ではマレーシア原産として扱われます。経由地を変えるだけで関税を避けることはできない、ということです。

この仕組みを踏まえると、関税の影響を見積もるときに最初に確かめるべきなのは、部品の原産国です。ところが半導体では、この原産国がそもそも一つに決まりにくいという事情があります。詳しくは、noteの「米国25%関税から見る、半導体「原産国」の意外な真実」で解説しています。

半導体の原産国は前工程か後工程か

原産国の基本的な決め方

WTOの原産地規則では、1つの国で完全に生産されたものはその国が原産国になります。複数の国で工程を分けて生産したものは、「最後に実質的な変更を加えた国」が原産国です。実質的な変更かどうかは、各国のルールで判断します。代表的なのは、加工の前後でHSコードが変わったかを見る方法、付加価値の割合を見る方法、特定の工程を行ったかを見る方法です。

前工程と後工程

半導体の製造は、大きく2段階に分かれます。

  • 前工程:シリコンウェーハに回路を作り込む工程です。高度な技術と巨額の投資が必要で、ICの性能や機能の大半がここで決まります
  • 後工程:ウェーハを個片にし、パッケージに封止してテストする工程です。製品として出荷できる形が、ここで整います

付加価値の大部分は前工程で生まれると言われます。一方で、完成したパッケージには組立をした国が刻印されることが多く、長年の商習慣では後工程の国を原産国として表示してきました。

米国と欧州は前工程を重視する方向に

この「実態と表示のずれ」を正す動きが、米国と欧州で進んできました。EUは1989年に、前工程(拡散工程)を行った国を原産地とする方針に改めています。米国の税関(CBP)も、2000年代後半以降の裁定で、ウェーハを加工した国を原産国とする判断を重ねてきました。中国で組立・検査を行ったICでも、前工程が日本や台湾なら原産国は日本や台湾、とした例があります。

日本の実務では後工程の表示がまだ多い

日本では、ラベルやインボイスに組立国が記載されていることが多く、それに沿って申告される例が少なくありません。ICの関税は0%のものが多いため、これまで大きな問題になりにくかった面もあります。ただし、制度としては前工程を重視する方向にあります。輸入国の税関の判断が最終的に優先されることも忘れないようにしたいところです。

表示がそろっていないという現場の実情

販売サイトやデータシートに載っている原産国は、メーカーが提供した情報がそのまま使われています。そのため、前工程の国を示すものと後工程の国を示すものが混在しています。

メーカーのなかには、表示の方針を改めたところもあります。たとえばBournsは、中国で組立てていた一部の半導体部品の原産国を、ウェーハを製造した台湾に改め、ラベルに組立国を併記する形に変えました。一方で、組立拠点ベースの表示を続けているメーカーも多く、業界全体ではまだ統一されていません。

さらに、同じ型番でもロットによって前工程や後工程の拠点が変わることがあります。販売サイトに「原産国は予告なく変わる場合がある」と書かれているのは、このためです。「COOの欄に書いてある国が、いつも同じ意味とは限らない」と考えておくのが安全です。

関税は価格と供給にどう波及するか

関税は輸入者が納め、そのコストは販売価格に上乗せされて、最終的には顧客が負担するのが一般的です。ただし、米国のディストリビュータが保税区域(FTZ)や関税の払い戻し制度(Duty Drawback)を使えば、米国から再輸出する分には関税がかからない、あるいは戻ってくる場合があります。日本の顧客にどこまで転嫁されるかは、ディストリビュータの対応次第です。海外ディストリビュータから買う場合は、インボイスに関税の項目が別に載ることがあるので、見積やインボイスで確かめます。

最終的な販売先が日本の場合、米国の関税は直接にはかかりません。ただし、メーカーが関税を避けるために生産や出荷の拠点を見直せば、一時的に物流が乱れ、リードタイムが延びることがあります。販売先ごとの影響の違いは、「「トランプ関税25%」で半導体サプライチェーンに起きること」で詳しく検討しています。

2025年の経緯

2025年は、米国の関税の方針が短い間に何度も変わりました。noteで取り上げた主な動きを、記事の時点の内容で並べます。

noteの公開日 記事の時点で示されていた主な内容 note
2025年1月 中国製品には2018〜2019年からの関税が続き、2024年には半導体などの税率引き上げも決まっていた。そこに、政権発足後にカナダ・メキシコへ25%、中国へ10%を追加する意向が示された。Z2Dataの試算では、中国への追加関税で影響を受け得る電子部品は660万点 対中国への輸入関税案
2025年2月 2月1日にカナダ・メキシコ・中国への関税が発表され、2月3日にカナダ・メキシコとは30日間の停止で合意した。Z2Dataの試算では、カナダ・メキシコ原産で影響を受け得る部品は420万点で、大半は受動部品 カナダ、メキシコ、中国に対する関税
2025年4月5日 相互関税(一律10%+国ごとの上乗せ)とは別に、半導体の輸入に約25%の関税をかける方針が示唆された。半導体は相互関税の対象外品目とされていた 「トランプ関税25%」で起きること
2025年4月13日 4月11日、スマートフォン、PC、集積回路、半導体製造装置などが相互関税の対象から除外された。受動部品やコネクタなど、除外の対象にならなかった品目もあった。半導体に別の関税がかかる可能性も指摘されていた 4月11日発表の除外措置
2025年5月 中国からの輸入品への追加関税は10%が2度で計20%。中国はガリウム・ゲルマニウム・アンチモンの対米輸出を禁じ、米国産の農産物に報復関税をかけた チャイナ・プラス・ワン パート1・パート2

いずれもnoteの記事を書いた時点の内容です。その後に税率や対象が変わっているものがあります。最新の税率・対象は、米国政府や日本の公的機関(ジェトロなど)の発表で確認してください。

この1年で見えてきたのは、個々の税率よりも、方針が短期間で変わり得ること自体がリスクだという点です。企業の動きも、中国の比率を少し下げる「チャイナ・プラス・ワン」から、中国以外の複数の国に分散する方向へ進みました。背景にある人件費、パンデミック、米中の規制の応酬は、パート1とパート2で詳しく整理しています。

調達・設計担当がいま確認しておきたいこと

1 主要な部品の前工程と後工程の国を把握する

ラベルやインボイスのCOOだけでなく、ウェーハをどこで加工し、どこで組立てたかを部品ごとに把握します。取引先や通関業者から問い合わせがあったときに、根拠をもって説明できる状態が理想です。

2 表示の定義をサプライヤーに確かめる

COOの欄がどちらの工程の国を示しているかは、メーカーや製品によって違います。重要な部品は、商社やメーカーに定義を確認しておきます。表示の方針を変えたというお知らせ(PCN)が出ることもあるので、見落とさないようにします。

3 購入経路ごとに関税の扱いを比べる

国内商社から買う場合、輸入と通関は商社が担います。海外ディストリビュータから直接買う場合、米国の関税が上乗せされるかどうかは、拠点や在庫の置き場所で変わります。価格、在庫、リードタイム、為替に加えて、関税のコストも比べたうえで経路を選びます。

4 販売先ごとに影響を受ける範囲を分けておく

関税は輸入する国で発生するので、同じ部品でも、どの国に向けた製品に使うかで影響が変わります。メーカーのなかには、米国向けとそれ以外の在庫を分けて管理する動きもあります。どの製品がどの国に出ていくかを起点に、影響を受け得る部品を洗い出しておくと、関税の方針が変わったときに初動が速くなります。

Z2Dataで原産国と生産拠点を見える化する

関税の方針が変わるたびに、影響する部品を一から調べ直すのは大きな負担です。部品ごとの生産拠点と原産国をあらかじめつかんでおけば、対象が発表された時点で影響の範囲を絞り込めます。

  • 部品と製造拠点のマッピング:部品表(BOM)の部品を世界の製造元や拠点と結び付け、原産地を追えます
  • Supply Chain Watchの調達ステータス:製造拠点や国への依存度を見える化し、関税や貿易障壁の対象になり得る部品を見つけられます
  • 代替部品の検索:原産国が特定の国に偏っている部品について、ほかの国で作られている代替品を探せます

KUMU Worksは、Z2Data LLCの日本総代理店として、導入から運用までを日本語で支援しています。自社の部品表で、どの部品がどの国に依存しているかを確かめたい場合は、無料トライアルかデモの依頼からお問い合わせください。

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この記事で取り上げたテーマを、KUMU Worksのnoteで詳しく解説しています。

「Z2Data記事の翻訳」は、Z2Data LLCの記事をKUMU Worksが許可を得て翻訳したものです。日付はnoteでの公開日です。

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